事例紹介

生物医学工学アプリケーション

適用業務:バイオ人工肝臓(BioArtificial Liver)の開発

ユーザー マサチューセッツ総合病院 医療技術センター/ハーバード大学メディカルスクール シュライン子供病院/オーガノジェネシス社
会社概要 急速に発展する組織工学の分野では、研究者は、人間の組織を人体外で増殖させる人工的環境の開発を行なっています。バイオリアクターの設計を効率化する過程で、バイオ人工肝臓を開発している研究者は、肝細胞の酸素取り込み作用を理解するのにDADiSPを使っています。
所在地 米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、ボストン、カントン
著者 ユリシーズJ.バリス博士


課題

組織工学分野の主たる関心は、効果的に器官機能を再生産するために、人工ハウジングの中で生きている細胞を効果的に再利用することです。バイオリアクターまたはBioartificial Constructsとして知られている装置は、装置内の全ての細胞が十分な栄養分と酸素を受けられるよう適切な構造にする必要があります。

酸素の消費

酸素の消費速度は、現在、ボストンのマサチューセッツ総合病院とシュライン子供病院で行なわれているバイオ人口肝臓(BioArtificial Liver (BAL))の製造における重要な設計パラメータです。多くの他のタイプの人体細胞とは異なり、肝細胞は、特定の刺激的な状況下で、ハイパー・メタボリック(hyper metabolic)の持続的状態で活動する能力があります。このことは、必要とする全体の細胞がより少なくてよいので、バイオ人口肝臓を設計する観点から非常に望ましい特質である一方、バイオリアクターは、細胞が異常に高い酸素の消費によって自らを窒息させないようにする必要があり、設計上非常に難しい挑戦をする必要がでてきます。この問題を解決するために、肝細胞酸素の消費特性に関する正確なデータを得ることが重要となります。

汎用ツールのニーズ

酸素取り込みの測定

細胞酸素取り込みの測定は、組込形クラーク・ポーラルグラフィック 酸素電極を使って、閉じた反応室で行なわれます。典型的実験は、反応室が周囲の環境から分離されたあと、酸素圧力を時間とともに測定することによって行われます。実験中は、室内が閉鎖されるので、細胞が呼吸することによって、酸素圧力は、時間とともに減少します。主要なバイオ人口肝臓のモデル・パラメータは、KmとVmaxで、それは実験的な酸素圧力カーブ データから求められ、この種類の実験の目的です。

スペクトル・ノイズの存在

酸素圧力−時間 カーブは、正確に発生されず、クラーク電極がかなりのスペクトル・ノイズを発生し、さらに、反応室で混合された信号ドリフトが合成されます。その結果、16ビット酸素圧力の生データは、扱いにくいことが最初の実験で分かりました。意味あるデータは、信号の平均化のテクニックにより処理した後でも、スペクトル・ノイズの海に埋まってしまいました。

周波数領域でのフィルタリング

スペクトル・ノイズを取り除くために、周波数領域でのフィルター技術が必要であることが明白になりました。さらに、各々の実験では、数メガバイトのデータが発生するので、強力なデータ管理システムが必要でした。

 

問題の解決

DADiSPは、中心的なデータ管理と分析ツールに選ばれました。その理由は、DADiSPが大きなデータセットを簡単に取り扱うことができること、また、それがベクトル化された表記法でデータを単純かつ直観的に操作できるためです。DADiSPとFiltersモジュールを使って、我々のグループは、クラーク電極のノイズを取り除き、本来の酸素取り込み速度(Oxygen Uptake Rate(OUR))カーブを残して、正確に描くことができました。この正確さは、以前に文献で報告されたことがなく、それ故、スペクトル手法という有力な応用例を生物学に提供することになりました。

汎用ツールのニーズ

周波数帯の分離

電極の典型的なノイズ・スペクトルを描くために、16ビット符号付、時間刻みの酸素消費データがDADiSPにインポートされました。このインポートは、DADiSP/DADiMPオプション・モジュールを用いることにより、簡単に行なうことができました。そして、パワー  スペクトルとして表示されました。多数の実験を検討した結果、ノイズ・スペクトルと関心のある低周波数のデータ(本来の酸素消費スロープに対応)の間には、小さいが、反復するバンド・ストップ(帯域阻止)があることが明らかになりました。この観察から、解答は、スペクトルのフィルタリングにあることがすぐわかりました。

デジタル・フィルタリング

DADiSPのFiltersモジュールを使用して、0.004ヘルツのバンドパスと0.0045ヘルツのバンド・ストップで、1018次のRemez変換Finite Impulse Response(FIR)低域フィルターを作りました。このような妙技は、アナログタイプのフィルターでは、簡単に実現できません。実現できたとしても、それはせいぜい8次ないし12次の機能しか達成できません。DADiSPのウインドウに表示される便利なインターフェースは、フィルターをかけられたデータとOURカーブを示すパワー・スペクトルを即時のビジュアルなフィードバックとして処理しました。

汎用ツールのニーズ

カスタム化した自動分析システム

手元にある有効な数値的な手段、つまり、DADiSPのSPLと呼ばれるC/C++ライクの言語とスプレッドシートのような設計法で、我々は、さらにデータ分析処理を効率化するために、自動化システムを構築しました。我々のDADiSPの中で動作するアプリケーションは、一度動作させると、一週間以内で数百メガバイトものデータを正確に分析することに成功しました。その結果のデータは、我々のバイオリアクター トポロジーをより洗練することにすぐに役立ちました。それは、おそらく従来に無い、最も正確な肝臓の酸素消費測定の方法と言えます。 バイオ人工肝臓サポートシステム(Bioartificial Liver Support System) 正確で再生可能な細胞の酸素消費測定は、機能的な人工肝臓サポートシステムを構築するといった全体的な目標の中で、一つの構成要素であります。そのサポートシステムは、人間のサポートに使えるような十分な機能を提供する事になります。毎年米国では、5,000人が急性肝不全と肝臓移植のために死体ドナーが不足することに関連して死亡します。高度な数値的解決策によって可能になった、より優れたバイオリアクターの開発が、多くの命を救うために、高度に最適化された人工器官の製造に貢献することが望まれます。

 
ベースバンド フィルター

強力なベクトル化分析

DADiSPの大きな特長は、数値的方法に対してのベクトル化アプローチです。類似した試みは、人気がある他の2つのハイエンドの数値解析パッケージで最初に行なわれました。1つのプログラムは、技術計算のための言語で、使用するのがあまりに難しかった。他のもう一つのプログラムは、完全には統合された技術的なコンピュータ システムで、複数の時間的スケールが考慮されていませんでした。一方、DADiSPのデータ分析機能は、我々の研究グループにとって十分満足の行くものでした。